強欲資本主義ウォール街の自爆 神谷 秀樹著

中谷 巌著のなぜ資本主義は自壊したのかと同じ問題意識を持ちアメリカ資本主義を批判する。結論も同じようにものづくりにこだわり日本独自の道を探せということだ。
中谷氏の批判は資本主義そのものに対する批判を含み、社会文化宗教あらゆる面から資本主義の問題点を指摘する。資本主義の根っこにある一神教キリスト教文化に疑問を呈する。
しかし、神谷氏は実務家であり自身がアメリカに住み投資銀行を経営する。あくまでウォール街の強欲資本主義を批判し、キリスト教精神に則った草の根のアメリカ人に変化への望みを託す。
ウォール街の強欲資本主義を批判して、「今日の儲けは僕のもの、明日の損は君のもの」何度も繰り返し出てくるが、金融業界で行われていることはまさにそのとおりだと思う。日経の経済教室でも指摘されていたが、金融商品だけが自己責任であらゆる事が片付けられる。しかし、自己責任を問うには説明責任が充分果たされる必要がある。サブプライムローンでは本来貸し付けるべきでない者にまで詐欺同様の手口で貸付を実行している。
一方銀行が破綻しても経営者は一切責任を取らず、それまでの高額の報酬を持ち逃げし、損は納税者に負担させる。
中谷氏の著書と共通する認識は、グローバル資本主義が社会の絆を壊してしまったということだ。終身雇用や年功序列など本当に破棄すべきものだったのか。長期的な視野に立てば意味があるのではないか。
また、企業買収がマネーゲーム化し企業価値の創造ではなく短期的な利益収奪の手段となってしまった。主役であるはずの実業を営む企業が金融資本の支配下で疲弊してしまう事態に対する批判も痛烈だ。
本書の特徴は、実務家による著作であり、豊富な実例を交えて説得力をもっていることだ。

強欲資本主義 ウォール街の自爆 (文春新書)

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