上海クライシス 春江 一也

著者は2002年に外務省を退官、「プラハの春」で鮮烈な作家デビューを果たし、本書は5作目の長編小説とのこと。
現実の出来事を元に大きな構想の作品になっている。初めての作家だが、導入から中盤までがよく、物語は大きく広がっていく。テロリスト、その妹、日本外務省職員、中国の公安、そして中国共産党内の権力闘争が絡んでくる。
後半は大風呂敷を仕舞うことに精一杯になってしまう。一番盛り上がりが必要なところが若干平板になった。登場人物が多すぎて、主役の上海日本総領事館電信官香坂雄一郎とテロリストの妹ライラに焦点を絞りきることが出来なかったためだと思う。余りにも欲張りな展開だ。逆に意欲的な作品で一読の価値がある。
上海の題名だけで読むことにしたが、新天地、豫園、外灘等観光した場所が舞台となっていてそれだけでも十分楽しめた。

上海クライシス

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