特許の強制実施権 世界に格差をばら撒いたグローバリズムを正す2

第4章 知的財産権を強化するアメリカの利権集団 
知的財産権はそれ自体が目的ではない。目的を達成するための手段だ。知的財産権イノベーションをうながすことにより、社会全体の福祉を増進させるとされている。しかし、途上国に対して本当に公正かどうか問うている。
丁度先日、この点について記事が出ていた。以下その記事だ。
安価な薬の提供か、特許の保護か。タイ政府が特許使用料を払わずにエイズや心臓病の薬を調達することを決め、波紋が広がっている。欧米の巨大メーカーが主導する世界の医薬品供給体制にタイの挑戦状は風穴を開けるだろうか。
発端はタイ政府が昨年11月、米メルク社が特許を持つエイズ治療薬に対し、世界貿易機関WTO)の規定で認められた「強制特許実施権」を発動すると発表したことだった。今年に入ってタイはさらに、欧米の製薬会社のエイズ薬と心臓病薬一つずつに対しても、この権利を行使すると発表した。
特許を使う場合、普通は使用料を権利者に払う必要がある。しかし、これを厳格に実施すると、先進国のメーカーが特許を持つ医薬品は高価になり、発展途上国の貧しい人々は入手が難しくなる。
このためWTOは2001年、カタールの首都ドーハで開かれた閣僚会議で「私的な知的財産権より公衆の健康が優先する」ことを認める宣言(ドーハ宣言)を採択した。
国家の緊急事態の場合、特許権保有者の許可を得ずに医薬品を製造・輸入する権利(強制特許実施権)をWTO加盟国に認めるというもので、今回のタイ政府の措置もこれを根拠にしている。
タイのエイズ問題は一時の危機的状態は脱したが、今でも約60万人のHIVエイズウイルス)感染者がいる。今の薬価のままだと、政府の財政事情ではこの5分の1程度にしか薬を提供できないというのが政府の説明だ。
発展途上国の間では欧米の巨大製薬会社に気兼ねして、強制実施権の行使を見合わせる空気が強かった。そうした現実に歯がゆい思いをしていた国際援助団体などはタイの「英断」に快哉を叫んでいる。
メルクなどはその後、薬価の大幅引き下げなどの譲歩案を示した。最強硬派のアボット社も10日、米国の本社が渦中のエイズ薬「カレトラ」の価格を半額以下にするという思い切った措置を発表した。対象は世界銀行の基準で低所得国または低中所得国に分類される40カ国以上で、タイもこれに含まれる。