巨大投資銀行 黒木 亮

主人公桂木のモルガン・スペンサーでの仕事の様子がリアルに描かれている。業界の内幕を知りかつ役に立つ情報を得る。アーサー・ヘイリーのホテル等の作品に似ている。
1980 年代後半の金融市場を舞台にブラックマンデー等大きな出来事を織り込んで物語が進む。日本はバブルの真最中だった。今現実の金融危機の動きを考える良い刺激になる。かつて資金運用をしていたが、仕組み債の作り方が疑問だった。証券会社も利回りの結果は説明しても、どうこちらのニーズに合わせて仕組み債を作るかは教えてくれない。そして外資系証券会社は本当にいろいろのバリエーションを提示してきた。組み込まれているスワップやオプションの価格は投資家に分からないので証券会社の抜き放題だったのだろう。
今更ながら自らの幸運を思う。外資系証券セールスマンの言うがままに運用していたら大変なことになっていた。この本を読んで改めてリスクの大きさに慄然とする。実に懇切に様々の仕組み債等について説明がある。日系証券から外資系証券に移り、それまでと違う強引な販売姿勢を示すセールスマンに疑問を持ち、出入り禁止にしたが正解だった。同じ顧客に会社を代わりましたと別の会社名の名刺でセールスに来るのにはビックリした。
1999年6月長銀の旧経営陣が東京地検に逮捕されるエピソードがあるが、それが最近最高裁で無罪となった。本当に感慨深い。
9.11事件が登場する。翌日日本政府から何か指示が出ているかと、主人公が日本領事館に電話すると、こんなことは前例もないし、我々には関係ない話と迷惑そうに言われただけだったと言うエピソードが描かれている。きっと事実あったエピソードだろうと感じると共に国民にそう思わせる外務省は本当に情けない。
最後まで一気に読み読後感も悪くない。初めての作家だが、アジアの隼など読んでみたい。

巨大投資銀行 (上) (ルビ:バルジブラケット)

巨大投資銀行 (上) (ルビ:バルジブラケット)

巨大投資銀行 (下) (ルビ:バルジブラケット)

巨大投資銀行 (下) (ルビ:バルジブラケット)