トウ小平秘録 上下 伊藤 正

産経新聞の秘録シリーズだ。著者も言う通り毛沢東秘録の好評を受けて本書が計画されたのだろう。
新中国建設の歴史は本当に興味深いものがある。多くの謎についてすべてが明らかになってはいないが、毛沢東を中心とした権力闘争の凄まじさはさすが三国志の国だと思う。
共産中国では他人より長生きすることが最後の勝利を得る条件だ。毛沢東も死後の評価を気にしながら亡くなった。周恩来は本書でもエピソードとして語られるが、毛沢東を恐れ、死後自分の写真に×を入れられる、つまり否定されることを恐れていた。
そして、今のところトウ小平は死後10年を経てなお評価を大幅には落としていない。
しかし、本書の付録何清漣によるトウ小平「経済改革神話」の破綻に示される通り、今日トウ小平の継承者によりその政策が継続されるが故に中国の前途は暗く閉ざされたままだ。まさにその通りだが、ならば別の道があったかというと疑問に思う。
人生三度の失脚を乗り越えた男の物語としても、現代中国の歩んだ物語としても抜群に面白い。それは同時代に生き否応なしに毛沢東文化大革命の影響を受けた日本人として興味が尽きない。

トウ小平秘録 上

トウ小平秘録 上

トウ小平秘録 [下]

トウ小平秘録 [下]