中国の歴史教科書問題 袁 偉時

1932年生まれ、中国広東省出身、中山大学哲学学部教授著。2006年1月に中国青年報氷点週刊が停刊処分になった。その契機になった論文が「近代化と中国の歴史教科書問題」だ。その著者による「氷点」事件の記録と反省の書が本書。問題の論文も掲載されている。その他にも日清戦争の歴史的教訓、抗日戦争 文明の進展と中国の反省や近代中日関係への冷静な思考 等の論文が掲載されている。著者は「漢奸」「売国奴」「手先」のレッテルを張られる。それでも、文化大革命の時とは全然違うと泰然自若としている。文革時代これらのレッテルは生命の危険を伴っていた。
本書を読んでいると著者こそ真実の愛国主義者と思う。何が愛国心かその中身の問題だ。日本の国会でも愛国教育が問題になったように。
中国の近代、中日の近代の歴史がテーマだが、史実に基づいた客観的な良い論文だと思う。
義和団事件の解釈が問題になっている。義和団は拳匪か三大革命(太平天国義和団辛亥革命」かだ。著者によると義和団は外国人排斥だけでなく自国民も殺戮した拳匪という判断だ。著者はこれを革命ということがその後の文化大革命の暴挙につながると言う。中国の子供が「狼の乳を飲んで育つ。」のを憂うている。狼の乳とは19世紀以降の極端な民族主義と、階級闘争を絶対化した偏狭な思想のことだ。目的が手段や行動を正当化し暴力を認め人権を蹂躙してしまう。文化大革命でどんな悲惨が国民に降りかかったかと憂国の人だ。
しかし、巻末の写真をみるとなんともいえない笑顔だ。苦労を乗り越えた末の笑顔のような気がする。

最後に著者のモットーがある。

毎日1万メートル歩き 八時間働く
真実を語り 自分の言葉で話す

毎日 笑って過ごす
 自分の失敗も成功も一笑に付し
 天下のおかしな人を笑い飛ばし
 希望と暗黒が共存する
 多彩な時代に生きる喜びにひたる

これが 心身ともに健康で
 楽しく暮らせる秘訣である

素晴らしい読後感の後、今日悲しいことに読売新聞朝刊によると 
人民政治協商会議の委員が開催中の全国人民代表会議に歴史問題で漢奸の言論を行った者に最高20年の懲役を科す「漢奸言論処罰法」の制定を求めた。

中国の歴史教科書問題―『氷点』事件の記録と反省

中国の歴史教科書問題―『氷点』事件の記録と反省